
患者さんのニーズと実際 歯を削ることは悪い治療なのか?
[2025年03月07日]
歯を削らない事によるトラブルがある
患者さんから言われる希望として、歯を削らないで詰め物や被せ物を入れたいというものがあります。虫歯だった部位に冠を被せる治療などは補綴治療と言われます。虫歯治療に限らず歯は可能な限り削らない方が確かに良いです。削った場所が弱くなり、再び虫歯になるリスクが高くなるためです。一方で、詰め物や被せ物をする補綴治療ではあまりに歯を削らないと詰め物自体の強度が保たれず、割れたり取れたりするリスクにつながります。これらを分かっているうえで、治療内容によって治療の方針を患者さんに選択をしてもらう場面があります。
- ① 破損しやすいが、削らない治療を何回も行う方法
- ② 破損しにくいが削って治療を行う方法
大きく分けて2通りあります。勿論個々のお口の中の状況によりさらに場合分けは必要ですが、治療の途中でここを患者さんと歯科医師が相談して治療を進めることがあります。それぞれのメリット・デメリットを確認し治療の選択の際に生かしてください。
【目次】
- ◯患者さんのニーズと実際 ① 破損しやすいが、削らない治療を何回も行う方法
- ◯患者さんのニーズと実際 ② 破損しにくいが削って治療を行う方法
- ◯まとめ
患者さんのニーズと実際 ① 破損しやすいが、削らない治療を何回も行う方法
◆ メリット
- 神経がある歯であれば、痛みやしみを感じる可能性が低い
- 余計に歯を削らずに済む
◆ デメリット
- 噛み合わせ、咬む力などに対応できず補綴物がすぐ壊れる・外れる
- 治療に行く回数が増える
- 結局削る量が増える可能性が高くなる
歯を削らない方法が選択できるのであれば、治療を受ける人は誰でも選択したいと思うものです。削らなければ神経がある歯であれば歯の痛みを感じることも殆どないからです。治療時に削られる心理的な不安も少ないでしょう。
しかし、詰め物や被せ物はある程度の厚みがあります。歯にそれらをつける際にはその厚み分だけ歯が高くなることを意味します。全く削らずに治療している歯に補綴物を無理に入れようとすると、仮に入れることが出来てもその部位だけ咬み合わせが異常に高く感じてしまうことになります。
従って、全く削らないで治療をするということは無理な治療になりトラブルの原因になってしまいます。症状として咬むと痛みがある、すぐ外れる、壊れるといった結果につながる可能性があります。
結果として、何度も通院することになる、治療費や通院にかかる時間などが多くかかる可能性もあるのです。また、何度も外れるからとそのまま放置しておくと状態が悪くなり、治療がかえって複雑になってしまうことも考えられます。
患者さんのニーズと実際 ② 破損しにくいが削って治療を行う方法
◆ メリット
- 削らない場合と比較して治療した部位が長持ちしやすい
- 余計な治療費や通院回数が減らせる
◆ デメリット
- 自身の歯の量が失われる
- 削ることにより、歯の痛みやしみる症状が出る可能性がある
歯を削って治す治療は、患者さんにとってはあまり行いたくない治療だと思います。削ることにより歯の痛みを感じたり、水などでしみる症状が出る場合も考えられます。
冠を被せる治療になれば歯の全周を削ることになり、削った後の歯を見ると今までよりも小さくなり驚くことも少なくないでしょう。
補綴治療を行うために削るのは、補綴物自体に強度を持たせる意味でも重要です。
つまり、削った量により補綴物の厚みが変わるのです。
- 削りが少なければ薄い補綴物になる
- 削りが多ければ厚い補綴物になる
削らない治療は、補綴物の強度が弱くなります。補綴物自体の強度を持たせ、長持ちさせるにはある程度歯を削らないといけないのです。
強度のある補綴物を入れることができれば、割れる、壊れる可能性は低くなります。
トラブルが少なくなれば、来院回数や治療費も抑えることが可能になるでしょう。
しかし、咬み合わせなどの厳しい条件下ではトラブルが完全になくなるわけではありません。
場合によっては、次のような処置を行うこともあります。
- 削る歯の量を増やす
- 治療している場所以外の歯を削り、補綴物を連結させ強度や剛性を上げる
- 便宜抜髄(べんぎばつずい):補綴物をするために歯の神経を取る
治療中以外の歯を削ることに対しては、患者さんの理解を得にくいのですが、
長持ちさせる治療を行う上で必要な場合があります。
まとめ
治療においては患者さんの希望を優先しますが、方法によりメリット・デメリットが存在します。
治療した後にすぐ何かトラブルが起こることは、歯医者としては不本意です。
一般的に、歯科医院で勧められる治療は、長持ちする可能性が高い治療です。そのためには、ある程度歯を削り治療をしていくことになるでしょう。
歯を削る理由は前述のとおりです。しかし、中には
- 「ここだけ治療して欲しい」
- 「詰め物が外れた部位をそのまま削らないで治療して欲しい」
といった患者さんのニーズもあります。
このような場合には可能な範囲で治療を行いますが、長持ちする治療ではないことを理解していただけると幸いです。