
口腔機能発達不全症について(その2)
[2025年02月28日]
思ったよりも身近にある「口腔機能発達不全症」。
前回は、口腔機能発達不全症とはどのようなものなのか、また、具体的な症状についてお話しました。
今回は、口腔機能発達不全症の疑いがある時に、どのような検査をするのか。
また、どのように治療を行っていくのかについて、お話していきましょう。
目次
1. 口腔機能発達不全症の検査・診断
口腔機能発達不全症とは、明らかな原因疾患がないが、「食べる」「話す」「呼吸をする」といった機能がうまくできず、専門的な関与が必要な状態のことをいいます。
「口腔機能発達不全症」が疑われる場合は、以下の3つの方法を用いて診断・評価を行います。
- 問診
- 検査
- チェックリスト
口腔機能の発達は成長のステージによって異なるため、診断は「離乳完了前」と「離乳完了後」に分けて行われます。ここでは、離乳完了後の診断について解説します。
◆ 1-1. 検査
「口腔機能発達不全症」では、お子さんの状態に合わせて検査の種類や方法を選択します。代表的な検査には以下のものがあります。
- ① 口唇閉鎖力検査
唇を閉じる力を測定する検査で、口唇閉鎖力測定器を用います。 - ② 舌圧検査
舌の力を測定する検査で、舌圧測定器を用います。 - ③ 咬合力測定検査
咬む力を測定する検査で、咬合力測定器を用います。 - ④ 咀嚼回数測定検査
咬む回数、テンポ、時間や姿勢を測定する検査で、咀嚼計などを用います。
検査結果を評価する際には、以下の点に注意する必要があります。
- 1回の検査結果だけで判断しない(成長や発育とあわせて評価)
- 口腔全体のバランスを考慮する(特定の部分だけを見ない)
- 成長曲線のように継続的な評価が必要
◆ 1-2. チェックリスト
口腔機能発達不全症の診断には、「食べる機能」「話す機能」「その他の機能」に分けたチェックリストが用いられます。
① 食べる機能
以下の3つの項目を確認します。
- 咀嚼機能:むし歯や歯列・咬み合わせの異常がないか。片側ばかりで咬む癖の有無、咬む回数など。
- 嚥下機能:食べ物を上手に飲み込めるか。飲み込む際に舌が前に出ていないか。
- 食行動:食べこぼし、食べむら、偏食、むせることがないか。
② 話す機能
- 唇を閉じることができるか
- 舌の動きや癖の有無
- 発音の問題
③ その他の機能
- 栄養状態(極端に痩せている、太っている など)
- 口呼吸の有無
- 睡眠時のいびきの有無
- 舌や喉の状態
口腔機能発達不全症のチェックリストは、日本歯科医学会の公式サイトなどで確認できます。
気になる項目があった場合は、自己判断せずに歯科医院を受診しましょう。
2. 口腔機能発達不全症の治療の進め方
診断から治療の流れをみていきましょう。
まず、先述した「口腔機能発達不全症」の検査を行います。そこでの結果をふまえて、1人1人に合わせた管理計画を作成していきます。
機能の発達不全の原因が医科的疾患の可能性がある場合は、専門医科の受診を優先します。また、歯並びや咬み合わせなど歯科的な疾患がある場合は、矯正治療と並行して治療を行うこともあります。
◆ 治療の流れ
- 管理計画を本人及び保護者へ説明
- 具体的な指導・訓練内容や期間を決定
- 歯科医院で練習し、家庭でトレーニング
- 定期的に来院し、口腔機能発達の改善を評価
口腔機能の発達が正常な状態まで追いついた場合は、定期的な経過観察となります。
一方で、改善が見られるがもう一歩という場合は、トレーニングを継続しながら様子を見ます。
発達の改善が認められない場合や、成長によって別のトレーニングが必要な場合は、管理計画の見直しを行います。
◆ 訓練の内容
訓練の内容は個々に異なりますが、例として「口唇閉鎖機能の訓練」を紹介します。
- 大きく口を動かす
- 舌を上下左右前後に動かす
- 自分で(または保護者が)口唇周囲をつまんで押し上げたり下げたりする
- 定規などを口唇ではさんで保持する
- ボタン付きの紐を前歯と口唇の間に挿入し、紐を引きながら口唇の力でボタンを保持する
- 風船を膨らませる訓練
- パタカラ®、りっぷるとれーなー®などの口唇閉鎖訓練器具を使用
このように、口唇閉鎖機能不全に対する訓練にはさまざまな方法があります。
お子さんの発達具合や年齢、生活環境に合わせて適切な訓練を選びましょう。
また、訓練を行うだけでなく、定期的な評価を行い、現状を把握することが重要です。
「前回よりも上手にできるようになった」などの評価があると、お子さんのモチベーションにもつながります。
3. まとめ
- 口腔機能発達不全症が疑われる場合、「問診・検査・チェックリスト」を用いて口腔機能の評価を行う
- 口腔機能発達不全症の検査には、「口唇閉鎖力検査」「舌圧検査」「咬合力測定検査」「咀嚼回数測定検査」などがある
- 口腔機能発達不全症のチェックリストでは、「食べる機能」「話す機能」「その他の機能」に分けてチェックする
- 口腔機能の評価をもとに、必要な指導や訓練を行い、管理計画を立てる
- 定期的に口腔機能の発達を評価し、管理計画を見直していくことが重要
「口腔機能発達不全症」の治療は、お子さんの成長と共に、長期的な視点で考えていくことが大切です。
できないことを気にするのではなく、できるようになったことを褒めてあげることが、治療の成功につながります。
また、疑問点があれば、些細なことでも遠慮せずに質問し、歯科医院とのコミュニケーションを大切にしましょう。
お口周りの成長・発達に関して気になることがあれば、ぜひご相談ください。