わが子が転んだ!!その時、歯は…
[2022年11月21日]
小児の転倒、どうする?
子供が歩き回るようになったり、小学校に通うようになると心配なのがケガですよね。
小児の場合、転倒時に頭部をぶつけることがとても多いのが特徴です。
また小学校に上がると活動量が上がり、外傷が起こる確率が高くなります。
友達との衝突、鉄棒やボールなどとの衝突、顔面からの転倒などなど…
保護者の心配は尽きません。
筆者が勤めていた総合病院では、顔から転んで歯が欠けた、口の中が血だらけ、といった状態で真っ青な顔で駆け込んでくる保護者の方が多くいました。
顔面をぶつけてしまった!!
口の中に傷ができているみたい!!
そんな時、どうしたら良いのでしょうか。
焦らず、冷静に対応できるように、今回は小児の外傷について解説します。
目次
1.わが子が転んだ!!まずやることは?
2.歯の状態と治療方法
3.治療後の経過
4.まとめ
顔面から転倒、応急処置
顔から転倒した場合に受傷が多いのが口の中です
特に小児では前歯を強打することが多く、歯の破折、脱臼(だっきゅう)、偏位(へんい)、脱落など、外傷による症状は様々です。
まずは口の中を清潔に保ちつつ歯科医院へなるべく早く受診することが大切です。
転倒後の手順を簡単に説明します。
①受傷時に頭を打っていないか、意識がもうろうとしていないか、口が開くかどうか、耳や鼻から出血していないかを確認する。
小児に限らずですが、顔面から転倒した場合、まず確認が必要なことが頭部への影響です。頭部への強い衝撃がある場合、めまいや吐き気、脳震盪を起こすことがあり、時間差で意識を消失する場合もあります。
また、あごに大きな衝撃が加わると、力の伝わり方により顎の骨の骨折はもちろん、顎関節(がくかんせつ)や耳の骨、頬や目の周りの骨の骨折を引き起こすことがあり、口が開かなくなったり閉じなくなることがあります。その場合、鼻や耳の穴から出血が認められることがあります。
以上のような症状がないことを確認しましょう。
②口の中を確認し、歯が折れていないか、口腔内が切れていないかを確認する。
次に、口の中を確認しましょう。
口の中は「歯」という鋭利なものが存在します。そのため、歯が折れていないかの確認と共に、口の中の粘膜や唇に傷がついていないかを確認します。
歯が唇や舌に刺さる場合もありますので、もしそのような状態が確認できた場合には無理に抜かないようにしましょう。
③口の中を清潔に保つ。
野外での顔面からの転倒では、顔や口の中に砂や砂利が付着し、汚染されます。
まずは大きな汚れを除去するために、しっかり口をゆすぎましょう。
口の中の出血は唾液によって、思った以上に出血しているように見えますが、慌てずに数回うがいをしてください。
うがいをした後に出血が気になる場合には、出血している部位を清潔なガーゼで強く抑えて圧迫しましょう。
④歯が折れていたら、歯は水洗いせずに牛乳・生理食塩水に漬けて歯科医院へ。
歯が折れていたり、抜けてしまった場合は、折れた歯は水洗いをせずに牛乳へ漬けてください。生理食塩水があれば、生理食塩水が理想です。
その後、30分以内に歯科医院へ受診しましょう。時間が経ってしまうとむき出しになった神経が死んでしまったり、歯根膜と呼ばれる歯の根についている膜が使い物にならなくなってしまうためです。
なお、①の症状がある場合や頭部を強く打ったと疑われる場合には、一般の歯科医院では対応出来かねますので、近くの救急外来のある総合病院を急いで受診しましょう。
歯の状態と治療方法
無事、歯科医院へ着いて一安心。
だけど、この折れてしまった歯はどうするの?
ぐらぐらだし、抜けてしまいそう…
実は「歯の外傷」と一言いっても症状は様々です。
子供の歯なのか大人の歯なのか?
一部が欠けているだけの状態なのか、それとも脱落しているのか?
続いては、それらの状態の言葉の解説と治療方法の例について解説します。
外傷歯の治療方法
外傷によって欠けたり抜けたりした歯を「外傷歯(がいしょうし)」と呼びます。
基本的には乳歯であっても永久歯であっても治療方法が大きく変わることはありませんが、永久歯の場合には乳歯と違い、生え変わりがありませんのでしっかりした治療と定期的な経過観察が必要になります。
歯冠破折
歯茎よりも上の白い部分を専門用語では歯冠(しかん)と呼びます。
外傷によって歯冠が欠けることを歯冠破折(しかんはせつ)と言いますが、歯冠破折がごく一部であれば、多くの場合、緊急性はありません。
・形態修正(けいたいしゅうせい):欠けて尖った部分を丸めるなどの形の修正
・レジン修復:欠けた部分を樹脂材料を使って補修する。
といった処置が施されます。
また、歯冠の中にある歯の神経が露出するような歯冠破折(露髄:ろずいを
伴う歯冠破折と言います)の場合には、部分的に汚染されている神経を切断し、薬剤を塗布したうえでレジン修復をするという処置が施されます。
乳歯や若い永久歯の場合には、歯の再生能力が高いため、部分的な処置で歯を温存できる可能性が高いと考えられています。
ただし、乳歯・永久歯どちらの場合であっても、1ヶ月・3ヶ月・半年・1年で経過観察を行う必要があります。
歯根破折
歯茎に埋まっている部分を歯根(しこん)と呼びます。
歯根が折れている状態を歯根破折(しこんはせつ)と言います。
歯根が破折すると歯の位置がずれたり、歯が揺れたりします。
しかし、実際に歯根が破折しているかどうかは肉眼で判断できないため、必ずレントゲンで確認をする必要があります。
歯根が破折して、歯の位置がずれている場合には正しい位置へ戻し、両隣の歯と
くっ付けることで2ヶ月程度固定します。(歯の状態により、固定期間は異なる場合があります。)
その上で歯根の破折した位置がどこにあるかによって治療法を決定します。
歯が斜めに折れている場合や乳歯では、抜歯が第一選択となる場合がありますが、永久歯では可能な限り歯を残す方法が選択されます。ただし、外傷による強い力で折れた歯根は神経が壊死(腐ってしまうこと)することも多いため、神経の治療が必須となる場合もあります。
脱臼
脱臼とは歯が折れずにぐらぐらになった状態の総称です。
・震盪(しんとう):歯の周りの組織が傷ついた状態。歯のぐらつき、位置の異常はなし。歯茎の中の出血(内出血)がある。
・亜脱臼(あだっきゅう):完全に歯が抜けてはいないが、ぐらぐらした状態。歯茎と歯の境目から出血することがある。
・側方脱臼(そくほうだっきゅう):元の歯の位置から前方や側方に移動してしまった状態。
・陥入(かんにゅう):元の歯の位置から歯が歯茎の中にめり込んでしまった状態。
・挺出(ていしゅつ):抜けてはいないが、元の歯の位置から歯が飛び出してしまった状態。
・完全脱臼(かんぜんだっきゅう):歯が完全に抜け落ちてしまった状態。
これらを全てまとめて「脱臼」と呼んでいます。
脱臼の基本的な治療方法は整復(歯を正しい位置に戻す)と固定(歯を正しい位置に固定する)です。麻酔をして、歯を正しい位置に戻したあとは両隣の歯とボンドやワイヤーを用いて固定します。固定の期間は約2週間程度です。固定期間が長すぎると、アンキローシスといって骨と歯根が癒着(完全にくっついてしまうこと)を起こすリスクがあります。陥入の場合には、固定はせずに自然に元の位置へ戻るのを待ちます。
ただし、乳歯の場合、めりこんだ乳歯(陥入)が後続の永久歯の萌出(歯が生えること)を阻害してしまう場合があるため、抜歯が第一選択となることがあります。
また、歯根破折と同様に将来的に神経の治療が必要となる場合もあります。
治療の経過
外傷歯は治療をおこなって終わりではなく、経過観察がとても重要となります。
外傷の治療が終わっても、数年後に歯の色が変わってきたり(変色)、知らず知らずのうちに神経が死んでしまう(壊死)ことも多くあります。
また、顎の骨に強く衝撃を受けた場合には、骨のなかに空洞が生じることもあります。
歯冠破折、歯根破折、脱臼のいずれの症状であっても外傷を受けた後は最低でも1年間はこまめに歯科医院へ通うことが重要です。
まとめ
今回は口の中の外傷、特に歯に関係した外傷について解説しました。
小さなお子様がいる保護者のかた、是非参考にしてみて下さい。
①慌てずに応急処置を行ったら30分以内に歯科医院へ。
折れた歯は牛乳に漬けて、出血がある場合にはガーゼで圧迫
②歯冠破折・歯根破折・脱臼のいずれかで治療方法が変わる。
③治療後は定期的な歯科医院への通院が重要