なぜ歯の神経を抜く必要があるのか
[2024年12月23日]
歯痛は古代から人間の痛みの中でも代表的なものの一つで、古くから対策が行われてきました。
歯痛の原因の多くは歯髄と呼ばれる歯の神経の疾患であり、その大部分は歯髄の炎症に由来します。
長い歴史の中では、一時期アメリカを中心に、歯の神経を取らず歯自体を抜いてしまう方法が選択される時期もありました。
しかし、近代歯科医学の発展に伴い、歯の神経を抜いても歯を長く機能させる方法が多く研究され、現在では”歯を抜く”のではなく、”歯の神経を抜いて、歯を残す”方法が第一選択となっています。
今回は、歯の神経についてのお話です。
目次
- 歯の神経について
- ◆歯の神経の役割
- ◆象牙質を作り、栄養供給する機能
- ◆歯の知覚を司る
- ◆刺激に対する防御反応
- どんな時に歯の神経を抜くの?
- ◆歯の神経を抜く必要がある場合
- ◆歯の神経は自己治癒力が低い
- 歯の神経を抜くとどうなるの?
- 歯の神経を抜かないためにできることは?
- まとめ
歯の神経について
まず、歯の神経とは一体どのようなものなのでしょうか。
一般的に「歯の神経」と言われている部分は、専門用語で「歯髄」と呼ばれます。
その中には神経だけでなく種々の細胞やコラーゲン繊維、血管やリンパ管も存在しています。
歯の神経の役割
歯の神経には次の3つの役割があります。
- ①象牙質を作り、栄養供給する機能
- ②歯の知覚を司る
- ③刺激に対する防御反応
▶︎象牙質を作り、栄養供給する機能
象牙質とは、歯の内側の部分を指します。
歯は、歯髄が残っているかぎり象牙質を作り続け、そのための細胞に酸素と栄養を供給しています。
▶︎歯の知覚を司る
歯の神経は、外からの刺激を全て痛みとして感じます。
痛みを感じることで、歯の神経や歯自身を守っているのです。
▶︎刺激に対する防御反応
歯の神経は、外からの刺激(物理的な刺激や細菌感染による刺激)に対し、象牙質を固くしたり厚みを増すことで更なる形成を促します。
それによって刺激の原因が歯髄へ侵入するのを防いだり、刺激が届きにくくなるようにして歯髄を守るのです。
どんな時に歯の神経を抜くの?
歯の神経はいわば「歯が生きている証」です。
こんなに大切な歯の神経を抜かなければならない状態とその理由はなんなのでしょうか。
◆歯の神経を抜く必要がある場合
歯の神経になんらかの炎症が起き、歯の神経が死んでしまった場合、歯の神経を抜く必要が生じます。
歯の神経に炎症が起こる理由には、以下が挙げられます。
- ・深いむし歯によって歯の神経にまで細菌感染が及んだ時
- ・歯に強い衝撃が加わり、歯の神経が根元で断裂して栄養供給が断たれた時
- ・歯が折れたり等なんらかの原因によって歯の神経が露出し、口腔内細菌に感染した場合
歯の神経が死ぬと、それは細菌感染の温床となり、後に歯の周りの組織にも炎症を引き起こします。
細菌感染が原因でなくても歯の神経が死んでしまうと、やがて歯の根の先端に存在する小さな穴や象牙質の小さな亀裂などを伝わって細菌が侵入し、歯の神経を腐らせます。
歯の神経が死んでしまった場合は速やかに神経を除去する必要があるのです。
歯の神経は自己治癒力が低い
歯の神経は、周囲を硬い組織によって囲まれています。
歯の神経への血液循環は、歯の根の先端にある狭い根尖孔のみを介して行われています。
このため、いったん炎症が生じると充血が起きて内圧が高まり、神経繊維を圧迫します。
これにより激痛を伴う循環障害を起こして簡単に神経は死んでしまうのです。
歯の神経を抜くとどうなるの?
一般的に、歯の神経を抜いた歯には以下のようなことが起こりやすくなります。
- ・歯に亀裂が入ったり、折れやすくなる
- ・歯の色が変色する
歯に亀裂が入ったり、折れやすくなる
歯の神経を抜いても、歯自体の組織学的な強さは変化しません。
しかし、歯の神経を抜く場合、多くは大きなむし歯を伴っています。
むし歯になった歯質は全て取り除く必要があります。
残った健全な歯質が少ないほど、歯は構造的に弱くなり、被せ物をして強度を補っても破折などが起こりやすくなります。
また、歯の神経を抜いた歯は加圧に対して鈍感になると言われています。
過剰な圧力を加えても反応できず、やはり破折しやすくなるのです。
歯の色が変色する
歯の神経に炎症が起きると、象牙質内に血液成分が侵入して神経が死んだ後に歯が灰色に変色することがあります。
歯の神経をとる治療を受けても変色することがあります。
変色した場合は通常のホワイトニングではなく、専用のホワイトニング治療を受けると白くすることができます。
歯の神経を抜かないためにできることは?
歯の神経は、歯を長く健康に保つためにとても大切な役割を担っています。
できるだけ歯の神経を抜かないためには、以下のことが重要です。
むし歯は小さいうちに治す
むし歯は小さいうちに治療しましょう。
痛みが出始めると、歯の神経にも少なからず炎症が起きています。
歯の神経は炎症に弱いので、なるべく早めに治療しましょう。
定期的に歯科医院を受診する
定期的に歯科医院を受診することで、自分では気付かないむし歯などの異変に素早く対処することができます。
また、クリーニングによってむし歯や歯周病の予防をすることもできます。
ぜひ、予防に重きをおいた考え方にシフトチェンジしましょう。
まとめ
歯の神経は、歯にとってとても大切な部分です。
しかし、一度炎症が広がってしまうと自然治癒は期待できず、歯の神経は簡単に死んでしまいます。
神経を失った歯は確かに弱くなりますが、ちゃんと治療を受ければ長く口腔内で機能してくれます。
歯の神経の大切さを理解しつつ、治療が必要になった際はしっかりと治療して、歯を大切にしていきましょう。